Scarlett ゲームレビュー |
<どんなゲーム?> | ||||||||||||||||||||
ねこねこソフトの最後の作品がこの『Scarlett』です。 渋めのエンターテイメントを目指したとのことで、これまでの作品とは全く違う印象を受ける作品です。 けれどハードボイルドかと問われると、そうでもない微妙なライン。 雰囲気的にはそれに近いのですが、アクションシーンがほとんどなく、爽快感は少ないです。 ガンマン・スパイというよりは、ネゴシエーターといった感じがします。 まずそこを勘違いしないように。 見た目こそ異なりますが、その中身は「ねこねこソフト」の作品そのものです。 んー、何だか上手く伝えられていませんね(苦笑) この『Scarlett』という作品は虚構であって虚構でないということです。 今回はねこねこソフト最後の作品ということで、テーマ性を前面に出してきています。 それは「日常」と「非日常」。 この2つを対比しながら話が進んでいくことになります。 舞台も現代、一部の国家・地名以外はそのままですから、 フィクションでありながらもリアルさを感じさせるストーリーです。 描いている世界こそ違いますが、『白い巨塔』のような社会小説的な要素を持っていると思ってくれれば。 そういう意味ではやや難解…というわけでもないんですが、 雰囲気に慣れるのに少し時間がかかります。 精神年齢として18歳以上推奨といった感じの作品です。 それではシナリオ等、その中身について詳しく見ていくことにしましょう。 |
||||||||||||||||||||
<簡単なあらすじ> | ||||||||||||||||||||
どこにでもいる学生だった「大野明人」、 彼はなんとなく過ぎる毎日を何とか変えようとし、学校を中退して旅に出たのだった… 旅の末、最後にたどり着いた沖縄… 彼はモデルガンでジュースの缶を撃っていた… 決して本物にはなれないモデルガン、彼はその姿と自分を重ね合わせていたのだった。 そんな時に偶然出会ったのが「しずか」だった… 彼女との出会いをきっかけとして、 憧れに過ぎなかった「非日常」の世界へと足を踏み入れていくのだった… |
||||||||||||||||||||
<キャラクター性> | ||||||||||||||||||||
このゲームはストーリーが一本道で、シナリオ分岐をしません。 登場する女性キャラからヒロインを選択するようなタイプでないことに注意してください。 よってカップリングは最初から決まってます。 「別当・和泉しずか・スカーレット」 明人と出会う非日常を生きる女の子。ツンデレ。ジークジオン。デコ助。 「葉山美月」 九郎を追っかける陸軍三佐(後に二佐)。三十路ヒロイン。酒に弱い、絡み酒。 「アメリア・ウィークス」 九郎に引き取られる少女。微ぽんこつ・天然。コンピュータの天才。縦ロール。 「???」 ねこHPには名前が出てますが、敢えて伏字。詳細は秘密ですが、優しい少女&女性。 ヒロイン格はこの4人です。他にも多くの登場人物が出てきます。 ネタばれにならない程度に紹介。 「別当・和泉九郎・スカーレット」 本編の主人公の一人。世界を動かす高級諜報家。カッコいいナイスガイ。 「大野明人」 本編の主人公の一人。普通の青年だったが、非日常に憧れて諜報員に。射撃が上手い。 「二ネット」 2章で登場する大統領の娘。九郎に敵意を見せる… 「ナセル」 フリーの諜報員。味方だったり敵だったり色々。九郎と並ぶナイスガイ。 「別当・和泉八郎・スカーレット」 九郎の父。世界を動かす高級諜報家。普段は気さくで明るい親父。 他にも多くの登場人物(合計22人程度)がいます。 どのキャラクターも基本的に真面目、渋め系です。 アメリアが唯一ぽんこつ風味、序盤のギャグ担当するぐらい。後はハードボイルドキャラが多いです。 ねこねこの片瀬健三郎シリーズほど気取ってはいませんが、 路線的にはそういった印象を受けるカッコいいキャラが主体です。 ですから、萌えとは一線を画していると思った方がいいでしょう。 ただどのキャラクターも凄くカッコ良く描かれており、非常に魅力的でした。 どの登場人物も生きることに真摯に向かい合っている感じがしましたね。 萌えやギャグ要素は少ないですが、彼ら彼女達のカッコ良さ・優しさが上手く表現されていたと思います。 |
||||||||||||||||||||
<CG> | ||||||||||||||||||||
CGの出来は素晴らしかったと思います。 デッサンの崩れ等は全く感じませんでしたし、 背景や武器・乗り物といったキャラ以外の部分もしっかり描かれていました。 カッコいい乗り物の数々が『Scarlett』の世界を上手く表現していたように思います。 ただイベントCG枚数はそんなに多くありません。 イベントCGにおける別パターンCGを除けば本編は74枚です。 これにCGモードに登録されない人物以外の絵等を加えると、100枚前後でしょうか。 でも実際にプレーするとCGが少ないようには思えないんですよね。 今回は背景の枚数が多かったからかもしれません。 そう考えるとCGの不満点は全くなかったように思います。 本編のHシーンは期待しないでください。 本編のHシーンは4度ありますが、シナリオ終盤の大事な場面での行為が多く、 シナリオに入り過ぎてしまってそんな気にはなれないと思います(^^; Hシーンの配置自体は適切だったんですが、必要性はさほど感じませんでした。 洋画のベッドシーンのような感じですかね。濃さは並、尺は短め、本番のみです。 オマケHはみずいろ・ラムネのキャラが中心で、新規収録が3つあります。 それ以外にも発売前に公開された『ぷちファンディスク』の内容も再録されていますから、 オマケHの合計Hシーンは6つです。 こちらは恒例とも言える内容ですので、Hシーンはみずいろ・ラムネキャラ達で堪能しましょう。 |
||||||||||||||||||||
<シナリオ> | ||||||||||||||||||||
さぁ、シナリオです。 これが今作『Scarlett』の全てと言っても過言ではないでしょう。 どんなシナリオかとえば、テーマ性の強いシナリオです。 「日常」と「非日常」の対比、これがこのゲームの全てと言って過言ではないです。 シナリオの雰囲気としては、『銀色』や『朱』のように痛くはありませんが、 『みずいろ』や『ラムネ』ほど気楽な雰囲気でもありません。 萌え要素もほとんどありませんし、美少女ゲームのシナリオではないですね。 雰囲気としてはAirの過去・Air編に近いものがあります。 重い雰囲気… ではなく、堅い雰囲気と言うのが適切なんでしょうかね。 九郎が活躍するシーンでは爽快感があるものの、 真剣に生きる人々の世界での話だということに注意してください。 導入部分からしてこの雰囲気ですから、やや感情移入しづらいゲームではあるかもしれません。 またストーリー展開が政治・社会問題と直結していますので、 普通に新聞やニュースを見る程度の社会知識は必要不可欠です。 これぐらいで「人を選ぶ」という表現は使いたくないのですが、 萌えゲーが主流である今の時代を考えると、頭を使う分野のゲームだと言えます。 シナリオの出来事自体は素晴らしかったです。 ネタばれ防止のために多くを語れませんが、その内容には太鼓判を押します。 まず『Scarlett』の持つ世界観そのものが良いです。 フィクションなんですが、限りなくノンフィクションに近い世界…そんな印象を受ける世界観です。 世界を真に動かしているのは何なのか、それを上手く表現していたと思います。 真剣に生きる人々の願い・葛藤がよく伝わってくるシナリオです。 そして『Scarlett』の持つテーマ、「日常」と「非日常」。 ねこねこソフトがずっと描き続けていたテーマの答えが、このゲームでは記されています。 そのテーマを是非とも味わってもらいたいですね。 小難しい感じはあるものの、説明不足はほとんどありませんから、消化不良感は全くありません。 ストーリーのテンポも良く、文章がスッと入ってきます。 分量もほどほど、長くもありませんし、短くもありません。 実際にプレイしてみると、やや短く感じるぐらいですかね。それはテンポの良さに起因しているのでしょう。 私は序盤のプロローグ部分こそ、ゲームの雰囲気に慣れずに取っ付きにくい印象を受けていましたが、 以降は世界観・テーマに飲み込まれて一気にプレイすることができました。 ゲーム後半には感動的なシーンが多く、涙が止まらなくなるほど。 最高の名セリフと音楽のコラボレーションを味わってもらいたいです。 泣きたい人にもオススメですね。 シナリオは間違いなくねこねこ至上最高峰。 美少女ゲームの中でもトップクラスに位置すると思われます。 シナリオ重視・テーマ性の強い作品を求める人、社会小説のようなジャンルをプレイしたい人、 感動の涙を流したい人には最高のシナリオでしょう。 |
||||||||||||||||||||
<音楽・音声> | ||||||||||||||||||||
音楽は『朱』ほどのインパクトはありませんでしたが、 『Scarlett』の雰囲気に合った音楽で、どの曲も出来は良かったです。 どちらかというと「渋め」もしくは「暗め」の音楽が多く、 ゲームをプレイしている時はそれほど印象に残りませんでしたが、 音楽鑑賞で改めて聴いてみると、各場面が頭に浮かんでくるなど物語と上手く融合していたように思います。 音楽面で残念なのはOPムービーがないこと。 歌は挿入曲とED曲の2曲ありますが、これまでのねこ作品と比べるとやや落ちます。 そこが唯一残念な点ですかね。 お気に入り音楽は3曲、「Recollections」「poplar trees」「scarlett 2006」です。 この3曲はある章の重要な場面で使われます。 シナリオのインパクトの大きさもあいまって、深く深く魂に刻み込まれましたね。 この3曲は別格。聴いているだけで暖かい涙が流れてきそうになります(;o;) 音声は女性キャラのみフルボイスです。 もうねこねこソフトではお馴染みの方々ですので、演技の心配はないでしょう。 しかし籐野らんさんが英語上手だということをすっかり忘れてました(爆) そういえば『銀色』って英語バージョンあったんでしたよね(^^; 今回声を当てているキャラ・しずかはポンコツ度0%なので、これまでと印象が全く違います。 『みずいろ』の日和のイメージが定着し過ぎましたが、最後の最後でそれから脱却したという感じですね。 別当・和泉しずか・スカーレット (籐野らん) 葉山美月 (まきいづみ) アメリア・ウィークス (夏野こおり) 二ネット (青山ゆかり) ???(母) (楠鈴音) ???(娘) (神村ひな) 残念だったのは男性キャラに声がなかったことでしょうか。 九郎を始め、明人やナセル、八郎など魅力的な男性キャラが多かっただけに、声も欲しかったところです。 そこが若干のマイナス要素でしょうかね。 →(追加) 後に男性ボイスパッチが追加され、完全フルボイスとなりました。 |
||||||||||||||||||||
<基本システム> | ||||||||||||||||||||
システム面の不備はないです。 今は基本システムが取り揃っていないゲームの方が珍しいですしね。 今作はシナリオが一本道ということもあり、私としては珍しくオートモードを使用しました。 スピード調整もできますし、問題なしでしょう。 バックログ・音声再生機能ももちろん付いています。 セーブ数はクイックセーブ1、通常セーブが100あります。 十分すぎる量なので、数の面も問題ないでしょう。 クリア後はCG鑑賞モード・サウンド鑑賞、恒例のオマケモードが登場します。 シーン回想はありません。 このゲームの特色として章・節で区切られているため、見たい場面はいつでも見ることができます。 ちゃんと「あらすじ」もありますから、迷うことはないでしょう。 ちなみにクリア後にキャラクター紹介も追加されます。 恒例のオマケ要素はみずいろ・ラムネ・サナララキャラが中心です。 残念ながら『Scarlett』のキャラはオマケに登場しません。 まぁ、今回は作風が作風なのでなくて良かったという気もしますが。 (人によっては、九郎×明人のオマケHぃが欲しいとか思ってるかもしれませんが(^^;) オマケ要素の最大の見所は、スタッフコメントと声優コメントです。 今回はねこねこソフト最後ということもあり、いつもはお茶らけたスタッフコメントも真面目になっています。 声優コメントは今作出演の6人に加え、みずいろの声優の方々がコメントを寄せています。 (籐野らん・奥森香由・綾川りの・青山ゆかり・堀奈生・上本のぞみ・神村ひな・楠鈴音・まきいづみ・夏野こおり) 声優コメントは声入りですので、余計に感慨深い気分になってきます。 なんか、こう… 卒業式みたいな気分になってきます(^^; ねこねこソフト好きは是非ともチェックしておきましょう〜 |
||||||||||||||||||||
<ゲーム性・演出面その他> | ||||||||||||||||||||
シナリオが一本道ですので、ゲーム性はありません。 ただ分量はそれなりにありますし、テンポも良かったですから、ゲーム性の無さは気になりませんでした。 そのテンポの良さを引き出したのは、章・節の区切りだったように思います。 全部で何章あるかは書きませんが、各章はおよそ10節に分かれています。 それぞれに「あらすじ」が付けれているので、 中断するタイミングが図りやすく、再開した時でも内容をすぐに思い出すことができます。 この章・節の区切りがあったことで、頭の整理をしやすくし、 テンポ良くシナリオを進められたように思います。 今回の章・節の区切り・あらすじの付与は大正解でしたね。 逆に用語辞典は意味があったのか不明です(^^; 必ずしも必要とはしませんでしたが、理解が早くなったのは確かです。 一部専門用語もありましたし、試み自体は間違ってなかったと思います。 若干テンポを損なった感はありますが、後から検索して自分で調べるよりは良かったんじゃないですかね。 |
||||||||||||||||||||
<まとめ> | ||||||||||||||||||||
少し手を付けにくい雰囲気はあるものの、 シナリオの中身・テーマ共に上質で、テンポ良く、コンパクトにまとめられた良作です。 ボリュームは並程度なので大作感こそありませんが、 さっとプレイして心に染み渡ってくる印象深いシナリオです。 シナリオ重視ゲームが好きなんだけれども、そんなに多くの時間が取れないという方、 そういった方々には最適のゲームだと思います。 逆に萌え重視でプレイする人はやめておいた方がいいです。 説明不足な文章はありませんが、それぞれの要素を味わうにはそれなりの思考能力が必要です。 同メーカーの『銀色』『朱』を味わうことができる人、 『みずいろ』『ラムネ』等のテーマをそれなりに理解できる人なら大丈夫でしょうが… 気軽に萌えゲーをプレイしたいと思っている方には向いていないと思います。 まぁ、たまに頭を動かしてみるのもいいのではないかと思いますがね(爆) この『Scarlett』にはねこねこソフトがずっと伝えようとしていたメッセージが込めれています。 その最後のメッセージを多くの人に受け止めてもらいたいです。 『Scarlett』は最終策に相応しい会心の出来となっています。 そのテーマを自分なりに受け止め、そして味わっていただきたいですね。 |
||||||||||||||||||||
<評価点> | ||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||
<動作環境等ゲーム詳細> | ||||||||||||||||||||
みずいろ(攻略・レビューあり) 銀色完全版(攻略・レビューあり) 朱(攻略・レビューあり) |