朱 ゲームレビュー


 <どんなゲーム?>

シリアス系ノベルゲームです。
ねこねこソフトの作品である『銀色』の流れを汲む作品で、『銀色完全版』の続編にも当たる作品となっています。
作品構成等も『銀色』と同じで、4章構成を主体としています。
今回は英語字幕バージョンはありませんが、映画形式の画面表示は健在です。
 (上下に黒い線が入るワイド形式画面のこと)
『銀色』よりも文字サイズが大きくなり、見やすいものとなったのが好印象ですね。

『銀色』との違いとして挙げられるのは、歴史物で章ごとに時代背景が違っていたのに対し、
今回の『朱』は基本的に全て同じ時代で、キャラクターによる視点の変化が中心となっています。
ただお互いのキャラが絡み合うことは少ないので、別々の主人公を追いながら物語を見ていく感じですね。
今回の試みは良くもあり、悪くもありました。
ネタバレになってしまうので具体的なことは書けませんが、
最終章等で全ての伏線を拾うため、1〜3章のラストが中途半端な終わりになってしまった感があります。
良く言えば余韻を残す展開なのですが、見せ方を工夫すれば感動的にできたと思うので勿体無かったです。
これなら章構成にする必要もなかったかもしれません。
前章の印象を引きずりながら次章に突入するなど、切り替えの悪さは気になりました。

あと『銀色』よりもソフト路線です。
シリアスで萌えは少ないですが、痛いというほどでもありません。
そう考えると『銀色』よりも取っ付きやすい作品だと言えます。

どうしても『銀色』との比較になってしまいますが、
章単独の良さなら『銀色』、伏線を利用した全体像では今回の『朱』という感じですね。
各章の内容を掴んで頭を整理しながら、最終章へとプレイしていくのが良いでしょう。
そう考えると視点変更など内容が掴みづらいかもしれません。
ま、それはシナリオ等で詳しく見ると致しましょう(^^;

 <簡単なあらすじ>

今からおよそ1000年ほど前の昔、広大な砂地に生きる人々の中に、
『ルタの眷属』と呼ばれる特殊な能力を持った人達がいました。
彼らは『ルタ』と呼ばれる者の命を受け、『ルタ』より与えられし特殊能力を使い、各々の仕事をこなし、
時代を超えて存在しながら世の中を裏から支えていました。
彼ら『ルタの眷属』はその証として胸に「朱い石」を身につけていたのです。

アラミスは『還す者』と呼ばれる者、そしてカダンはその守護者…
彼らはルタの命をこなすうちに、とある疑問を抱いていくのでした…

 <キャラクター性>

ヒロインは各章ごとに存在します。
 1章「アラミス」 ルタの眷属で『還す者』、そして主人公の「カダン」はアラミスの守護者。
           常に眷属と守護者であり続ける2人。そんな2人のすれ違いの物語。
 2章「チュチュ」 幼馴染の「ターサ」とともに盗賊まがいのことをしながらも、楽しく生きる2人の物語。
 3章「ファウ」   街で薬師としていたファウ、そしてファウに助けられた「ウェズ」、
           自分にできることを探して旅に出る2人の物語。
 4章「ラッテ」   遥か昔の物語。始まりの物語。


どの話も基本的にシリアス路線なので、萌えはあまり期待しない方がいいかもしれません。
全体的に主人公キャラ(男性キャラ)の性格が堅いだけに、恋愛要素は薄いです。

チュチュはねこねこソフトお馴染みのポンコツさん、
ファウは心優しく信念あるキャラも実は男殺しな甘えん坊、ラッテは意地っ張りながらも純粋な女の子(ツインテール)。
萌えるとすればここらでしょうね。
私はファウの男殺しなセリフにメロメロでした(笑)  あとラッテのツインテールも(^^;
んー、そう考えると、萌え要素が少ないと言いながらも、しっかり萌えてたのかな?

萌えゲーではありませんが、キャラクター性はしっかりしていたと思います。
ねこねこソフトのゲームだと、『銀色』と『みずいろ』の中間ぐらいの萌え度でしょう。

 <CG>

CGの出来は素晴らしいと思います。
背景やキャラの立ち絵、イベントCGともに綺麗な仕上がりをしています。
最近はどのゲームもCGのクオリティが高く、遜色ないものになっていますが、
その中でも丁寧な部類に入ると思われます。

今回はメインキャラ以外のサブキャラも多いのですが、それらもしっかりと描かれていました。
これだけ逆に丁寧に描かれると、サブキャラに対しての想いが強くなってしまうかも(笑)
あー、ハファザの宿娘と水鏡のお姉さんの萌えCGはないものでしょうかね(爆)
 (一応、水鏡のお姉さんはイベントCGありますが、萌えというわけでもないので)

他には… ゲームの演出上、過去のシーン(4章など)は全編白黒となっています。
ただアルバムモードではカラー版が追加されます。
で、アルバムモードで見ると良い仕上がりしてるんですよ〜 これがまた。
2回目以降、過去編のフルカラー化を選択できるなどの演出を入れた方が良かったと思います。
せっかく良い仕上がりをしているのですから、演出上のこととはいえ、勿体ないです。
そこがCGの不満点でしょうか。

あとは今回、一部アニメーションが導入されてます。
とはいっても、天候を現すぐらいで、Hシーンにあるわけではありません。
砂漠の太陽の眩しさ、降りしきる強い雨などの演出に使われています。
シナリオ中心のゲームですし、この試みはプレイヤーに自然の厳しさを伝えてくれましたので、良かったと思います。


本編のHシーンは期待しないほうがいいです。
むしろ邪魔かもしれません。これならなくても良かったと思います。
アナザーストーリーのような形で本編とは別に設けたほうが良かったかもしれません。
クリア後のオマケのHシーンは恒例ともいえる『みずいろ』キャラのコスプレH。
Hシーン目当ての方はそこに期待しましょう(^^;

 <シナリオ>

シナリオは良かったと思います。
基本的にテンポが良く、サクサク進むのがいいですね。
「己の証」「思い出」「幸せとは何か?」とシナリオテーマもはっきりしており、
それに対して相異なる2つの立場を描きながら、プレイヤーに考えさせる形となっています。
その手掛かりもシナリオ内に含まれているので、それを見逃さなければ答えを出せるでしょう。
複数の視点・立場で語られていますので、プレイヤーの考え方次第で導き出す答えは違ってくるかもしれません。
そういう意味では「プレイヤー次第の考えさせられるゲーム」だと言えます。

ただ難解…とは言いませんが、ストーリー・心理を掴みづらかった感があります。
会話分よりも地の分に重要な文章が多いので、会話以外の文章を簡単に流していっては話を理解できません。
普通の本を読み進める感覚で、行間を読んでかないといけませんし、
各章で話が完結するわけではないので、自分なりにその都度、頭を整理しなければなりません。
そういった意味ではプレイヤーによって理解度の差が出てくることでしょう。
国語の授業が嫌いだった人は避けた方がいいと思います。
読み取りや考える事が好きならば、抵抗感なく入っていけるでしょう。

結論としては人を選ぶシナリオだと思います。
『銀色』が肌に合った人でも、読み取りが不十分だと難しいですし、
逆に読み取りが十分でも、『銀色』をやっていないと手掛かり不十分で分かりづらいかもしれません。
 (一応の救済措置があるとはいえ)
かなり人を選ぶシナリオではありますが、出来そのものは良かったです。
私のシナリオの読み込みが十分だったかは分かりませんが(爆)

 <音楽・音声>

ねこねこソフトのゲームと言えば音楽でしょう。最近ではこれが一番の売りになりつつありますね。
今回は中央アジア以西の砂地を舞台とする物語なので、アラビアチックな曲が多いです。
ゲームの舞台・雰囲気にベストマッチで、良い仕上がりでしたね。
お気に入りは「Scarlet 2」と「朱−inst−」、2曲とも良い場面で使われる曲で印象深いです。

ボーカル曲はOPを含めて…5曲ありますね。うち1曲は別バージョンがあるので6曲です。
歌い手の方もそれぞれ異なるので、飽きが来ないのが良いところでしょう。
美少女ゲームなのにボーカル曲に力を入れすぎというツッコミがありそうですが、
これは特色があっていいんじゃないんですかね?
それを楽しみにしている人もいますから<はーい、私です(^^;
お気に入りの歌は主題歌の「砂銀」と挿入歌の「朱」です。
「朱」は波のようなリズムがいいですね。滑らかなテンポでお気に入りの一曲です。
ちなみに英語の曲が2曲(別バージョンで計3曲)ありますので、ご注意を。

それとゲームにはサントラCDが付随しています。
一部環境によっては音が切れてしまったり、音質が悪かったりするようです。
私の使ってるもう1つのPCは5年前の2chアンプ内臓スピーカー(1万ほど)なのですが、
それで再生したところ、やや音質が悪かったように思います。
ただ現在使っているPCの5.1chスピーカー、デジタル再生3ch仕様で再生したところ、
綺麗な音質で再生されていますね。
スピーカーの性能でかなり左右されると思います。
一番差が出るのは2曲目の「Desert」、音割れしたら自分のPCスピーカーを恨んでください(爆)

曲の雰囲気で少し追加。
サントラをかなり実家でも聞き込んでいるのですが、良い意味で平気に聞ける曲です。
若者特有のリズム・雰囲気がなく、普遍的なリズムというか、耳に優しい曲調をしています。
『みずいろ』『銀色完全版』とかなり曲のクオリティも上がってきています。
今までの美少女ゲームの中で、曲の一般性(芸術性?)は一番高いと思います。

追記:今回も多くの音楽集団の外注となっているようです。
SoundUnionさんさんに加え、、LittleWing、新しくできたfeel、さらにI’veの楽曲も。
外注ではありますが、全体として上手くまとまっているのがいいですね。


音声は女性キャラがフルボイスとなっています。
ただし1回目はアラミスの声がありません。
これはゲームのテンポと損なわないための演出だそうですが… 意味あったのかは定かではなし。
それなら最初から声のON・OFFを設定すれば良かったと思います。
まぁ、声がなかった分、サクサク進められたのは確かです。
声が入った2章は随分と間延びした印象がありましたから(声も間延びしてますが(^^;)
演技自体は文句なし。脇役の花音さんと北都南さんの声に萌えるのは勿論のこと、他の方もお見事でした。
敵眷属等の声の方は…ゲーム本編よりもオマケでの熱演が目立ちました(笑)

 アラミス       (宇佐美桃香)
 チュチュ       (籐野らん)
 ファウ        (まきいづみ)
 ラッテ        (安倍有紀)
 ミルア(宿屋の娘) (鳥居花音)
 露天商        (狩奈まえ)
 キャラバン商人等 (蓮香)
 敵眷属等      (紅まゆ)
 水鏡の者等     (北都南)
 石切         (夏海萌)


 <基本システム>

システム面はメッセージスキップや読み返し機能、オートモードなど一通り揃っています。
読み返しはテキストのみ、音声の再生はできません。
今回のオートモードはスピード調整ができるので、『銀色』の時よりも使いやすくなりましたね。
メッセージスキップは未読・既読判別なしですが、基本的に話は一本道なので使う機会はないので問題ないです。
それと最近流行りのスクロールメッセージ送りも搭載済みです。
スクロールを返せば読み返しですので、クリックしなくても進められるのは嬉しいところ。

セーブ数は最大60可能です。
選択肢分岐でセーブをして行く分には余裕ありますが、
ストーリーの重要部分をセーブして再開しやすいようにすると60の倍は必要となります。
そこはシーン回想を使いながら、上手く補いましょう。
ゲームを進める分には問題ありません。

クリア後のおまけ機能はCG鑑賞・音楽鑑賞・シーン回想(Hシーンや主要イベント)、オマケシナリオがあります。
CG鑑賞に追加されないイベントCGがあるのが残念でした。
シーン回想も追加されないイベントがあるなど、やや不備があったかなと思います。
おまけシナリオは『みずいろ』のキャラがメイン。ギャグが5本、Hが2本です。
みずいろキャラの方が弄りやすいのは分かりますが、この作品からねこねこソフトのゲームに入る人もいるでしょうし、
『朱』のキャラのオマケを増やした方が良かったと思います。
計7本中、2本しか『朱』のキャラが登場しないのはちょっと戴けませんね。
マニアック過ぎるおまけも考えものです(^^; みずいろ、もう売ってないんですし<コンシューマ版買えということ?

基本システム全般は良かったのですが、オマケ機能の不満点はいくつかありました。
そこの手直しを今後はしてもらいたいです。
あまり『みずいろ』のキャラに頼りすぎるのも… 別のゲームなわけですから、本数を減らす努力をして欲しいですね。

 <ゲーム性・演出面その他>

今回の主な演出は、「画面表示形式」「章構成」「天候アニメーション」「アラミスの音声オフ」ですね。
それぞれの特徴は前述の通り。
成功と言い切れるのは「画面表示形式」「天候アニメーション」、
人によりけりなのは「章構成」「アラミスの音声オフ」という感じです。
音声のON・OFFはプレイヤーに選択させた方が良かったと思いますね。
それ以外の演出は良かったと思います。
特に画面表示形式は味があって良いですね。本当に映画を見ているような感じがします。

ゲーム性はありません。
幾つかBadエンドはあるものの、基本は一本道となっています。

 <まとめ>

『銀色完全版』の続編であること、シナリオの読み取りが必要なことから、
かなり人を選ぶ作品だという感は否めません。
シナリオ重視のゲームが好きな方、音楽の良いゲームが好きな方以外は手を出さない方が無難だと思います。
却って頭が混乱するだけで、損した気分になってしまう可能性がありますから。

ただ「シナリオ重視のゲームが好き」、「深みのあるシナリオ」が好きな人にはうってつけの作品だと言えます。
考えさせられるゲームが好きな人にはオススメの一作です。
「自分の証」「思い出」「幸せとは何か?」、そういう深いテーマを味わって欲しいですね。
よくできた作品だけにじっくりと鑑賞してみましょう。人生における様々な一側面を見せてくれますよ。

こういった作品が美少女ゲーマーの中でどう評価されるのか、とても気になるところです。
「萌え」中心のユーザーに媚びたお約束的作品、表面だけ飾った作品が増えている中、
描きたいものを描き、内面を重視した文章読み取り型の芸術的作品が受け入れられるかどうか…
変な言い方ですが、美少女ゲーマーの「民度」「成熟度」を図るのには良い機会かもしれません。
現時点の反応はあまり良くないだけに、ネタバレ解説が多くされることで、
作品性を多くの人が理解できればと願っています。

 <評価点>
CG シナリオ 音楽 システム 萌え 演出 声優 コスト H度 総合点数
10点 9点 10点 7点 8点 8点 8点 6点 92点

 <動作環境等ゲーム詳細>
タイトル 朱[−Aka−]
メーカー ねこねこソフト
発売日 03年6月13日発売
メディア DVD−ROM(初回版のみCD−ROM3枚含む)
+インストールディスク(修正ファイル)
音声有無 フルボイス(女性のみ)
対応OS Win98・ME・2000・XP
CPU(必須/推奨) MMX Pen2 300MHz以上/Pen2 500MHz以上
メモリ(必須/推奨) 64MB以上/128MB以上
解像度(必須/推奨) 800*600 フルカラー
その他備考 DirectX 8.0a以上
サントラCD付属
※参考:同メーカーゲームタイトル
 みずいろ(攻略・レビューあり
 銀色完全版(攻略・レビューあり



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