CANVAS感想ルーム


CANVASというゲームの最大の売りはやっぱりあの「淡いCG」なんでしょう。
私もそれが目当てでしたし、大半の方もそうでしょう。
F&Cのゲームのシナリオは無難な感じで終わることが多く、
シナリオはたいしたことがないゲームが多かったですからね。
それだけに期待はしてはいなかったんですけど、
プレイして見たらそんなことはなかったんだなと反省しちゃいました(^^;

このゲームのシナリオの最大のテーマはやはり
「描けなくなった絵を再び描くには?」でしょう。
それを中心に「絵を描く理由」「描けなくなった理由」
「子どもの頃の想い」が描かれていますね。
そういう意味から言えば、このテーマの答えを挙げているのは、
百合奈先輩と悠のシナリオでしょう。



百合奈先輩のシナリオは「呪い」という言葉をキーワードに展開していきます。
全体的に言葉遊びが多くて哲学的印象が強いシナリオ。
整理しないとやや分かりづらい印象があります。
それはやはり明確な答えは主人公のモノローグで語られることが多く、
見逃しがちになっちゃうからでしょう。
よって整理しながら感想を述べていこうかと思います。

テーマの答えを先に述べれば、
「主人公は好きなものを描いていたけれど、
絵が上手になって、周りの指示通りに絵が描けるようになったことで、
描きたかった頃の自分を見失うのが怖かったから描けなかった。
そこで百合奈先輩という描きたい者を見つけ、
周りの人間を見ることで絵が描けるようになった」という感じです。
このシナリオのテーマになっていた「呪い」というのは一種の思いこみであるようです。
現実に対して、自分自身を正当化したり、他者の意見に任せてばかりいることで、
自らの心の痛みを和らげようとするのだけれども、
結果的にその網から脱却できないようになって、
責任を周りに転嫁しながら自分自身に呪いをかけてしまう… それが呪いの姿。
その呪いを脱却する方法というのが、自分自身の弱さを認めること。
そしてその思いこみを無くすことのようです。

この呪いをかける行為というのは、
誰しも多かれ少なかれやっている行為ではないでしょうか?
人間は辛い現実を直視し続ける強さを持ちつづけることなんて
人間社会で生きていく以上、不可能と言ってもいいでしょう。
その辛い現実のクッションとなるものが「処世術」と呼ばれたりするもので、
生きていく上で被ってしまう「仮面」なんでしょう。
ただその「処世術」や「仮面」というのは使えば使うほど、
自分を束縛してしまうものである…
そんな人間の姿を描いたのがこのシナリオでしょう。
百合奈先輩・瑠璃子先輩・主人公…
この3人にそういう人の姿を映しだし、それを脱却する方法を描いたんだと思います。
そういう意味ではこのシナリオはかなり意味合いが深く、
味わい深いシナリオだと思います。

あとこれは多少テーマとは外れますが、認識論に触れてるのが興味深いです。
「見つめられることで人は存在して、
受け入れた人の数だけ世界は広まるんだと私は思います」
「人間の脳なんて都合の悪いものは忘れてしまうものなのよ」
この二つの言葉が全てでしょう。
究極的には人々が認識することで物は存在するという見方に通じるものがあります。
この考え方は「ONE〜輝く季節へ〜」をプレイしたことのある人なら、
思い当たる節があるでしょう。
こういった所に触れているのも興味深くあり、
哲学的で考えさせられるものが多いシナリオだと言えるでしょう。



悠のシナリオは百合奈のシナリオ以上に明確に答えを出しているシナリオです。
事実上、これがCANVASのテーマの答えといっていいでしょう。

このシナリオのテーマの答えは
「描きたい物が何か分からなくなった主人公が描きたかった理由を
思い出すことで、絵が描けるようになる」です。
昔、病弱で外出がままならない母親に家にいながらでも、
外の風景を見せることのできる絵、自分の見たものを見せることができる絵、
下手ながらもその絵を見せて母に喜んでもらいたいという一心で描いていた主人公。
どんな賞よりも母に、悠に、周りの人に誉められ、喜んでくれることが嬉しかった。
だが、母が死に、悠も引っ越してしまうことで、絵を見せたい人を失ってしまい、
絵が上手になって周りの指示通り絵が描けるようになっても
それは満足することにはならなかった。
そこに悠という懐かしい、絵を見せたい人と再会したことで、
主人公は描きはじめた理由を思い出し、
悠に喜んでもらおうと絵を描く…そんなシナリオであると思います。

「絵を描く理由」が「大好きな人に喜んでもらいたい」という
子どものような単純なこの答えがこのシナリオの全てであり、答えです。
悩むうちに自分を正当化する行為や違った悩み・人間関係を考えるうちに、
その悩みが他のものに変わってしまい、勝手に深刻なものだと思ってしまう。
でもその答えは実は簡単なもので、自分の記憶の中にある…
よくあることですけど、一番自分で気づくのが難しいことでもあります。
悩みの答えはいつも外にあるのではなく内にある…
そんなことを伝えてくれるシナリオであったと思います。



このように百合奈・悠という二つのシナリオを中心にCANVASを見てみましたが、
こう見ると短いシナリオながらも実に味わい深く、
人が陥りやすい思考の罠・その脱却法を上手く描いた良作に思えます。
こういう「考えさせてくれるゲーム」は物差しで測ることができないように思えます。
それはその時のプレイヤーの心境や立場・その人の歴史によって影響が違うからです。
ゲームを楽しむのもいいですが、
こういう風にゲームをやって現実との接点を考えるのも良いことでしょう。

DCに移植するらしいので、思春期で悩んでる中高生に
是非ともやってもらいたい作品ですね。




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