センバツ甲子園大会から考える今後
センバツであってセンバツではない…そんな大会だったと思います。
1回戦はセンバツらしい好投手の完封勝利を始めとする落ち着いた試合が多かったんですが、
2回戦以降は逆転に次ぐ逆転で熱戦が繰り広げられました。
1回戦16試合中8試合は完封ゲーム、けれど2回戦以降は15試合中僅か2試合のみ、
逆に1〜2点差の接線が15試合中10試合になるなど、数字からも試合展開の変化が伺えます。
特に2回戦以降は終盤の同点・逆転劇が多く、夏の大会のようなどんでん返しが多くあったように思います。
これだけ熱いセンバツも珍しい。実に内容が豊富な大会だったと思います。

大会を振り返る上で、1回戦で頑張った好投手達の存在を挙げておこうと思います。
完封ゲームだと…岡山城東・出原、秋田商・佐藤剛士、福岡工大城東・日下、拓大広陵・伊能、
済美・福井、大阪桐蔭・岩田、明徳義塾・鶴川・松下、そしてノーヒットノーランの東北・ダルビッシュ有。
完封ではなかったものの勝ちチームでは…愛工大名電・丸山、甲府工・三森、鵡川・宮田、
東邦・岩田、八幡商・上田、東海大山形・佐藤淳、そして17奪三振の社・大前。
1回戦敗退だったものの好投を見せたのは…立命館宇治・中田、日南学園・中萬、斑鳩・高間、
一関一・木村、土浦湖北・須田、熊本工・岩見、常葉菊川・高橋、報徳学園・片山…
なお、今大会で140キロ以上を計測したのは…ダルビッシュ有投手の147キロを筆頭に、
143キロの佐藤剛士・鶴川・岩田(東邦)・木村の4人、
140キロ以上が福井・岩田(大阪桐蔭)・宮田・須田ら4人、
これに福岡工大城東の定岡の146キロが加わって(本職じゃないので)計10人が計測しています。
上に挙げた投手以外も本格派右腕投手は140キロ近く出していましたし、
好投手の多さが印象的な大会でした。

2回戦以降はうってかわっての1点を争う熱戦の連続。打者の力強さが印象的でした。
それを象徴的するのが本塁打でしょう。
1回戦は日南・井上、済美・鵜久森、大阪桐蔭・平田、佐賀商・飯田、東海大山形・土谷・林の計6本。
けれど2回戦以降は、愛工大名電・佐々木、秋田商・吉田、拓大紅陵・佐藤、福岡工大城東・藤沢、
大阪桐蔭・中村1号・2号、東北・横田、明徳・久保田、愛工大名電・梶田・鈴木、
福岡工大城東・山下・田口、東北・大沼、済美・鵜久森・高橋、明徳・梅田・野村と計17本も出ています。
中でも福岡工大城東の藤沢選手のサヨナラ2ラン、大阪桐蔭の中村選手の1試合2本塁打、
済美の高橋選手の逆転サヨナラ3ランホームランは印象に残りましたね。

以上のように今大会は投打に渡って選手のレベルの高さを感じる大会でした。
チームの完成度も非常に高く、センバツとは思えないほどに充実していたと思います。
新3年生だけでなく、新2年生にも良い選手が多く、将来が楽しみな選手が多かったですね。


今大会を熱いものにした要因に「終盤の同点・逆転劇」があったのですが、
それは裏を返してみると守備側の精神的脆さがあったとも言えます。
9回の同点・逆転劇の大半はエラー・余計な四球から始まっています。
勝利を目前にした時の「早く勝利を収めたい!」という気持ちはわかりますが、
それで大切な1球を疎かにしては勝利を飾ることはできません。
今の高校球児の方々にはもっと「1球の大切さ」を学んでもらいたいです。


戦術面の変化ではセーフティースクイズの多用が目に付きました。
普通のスクイズよりセーフティースクイズの方が多かったかもしれません。
なんでセーフティースクイズが増えているのかはよく分かりません。
単純に安全性を取っているわけではないと思うのですが…
確かに通常のスクイズのようにウエストされて打者が空振りする心配はありませんが、
その分3塁ランナーの判断力が大切になってきます。
打者がバットを引いた時の帰塁、そして打球が転がった時の打球判断と
一瞬の躊躇があっただけでアウトになってしまう危険なプレーです。
打者のバント能力にも左右されますし、必ずしも安全な策とは言えません。
考えられるのはそれだけ選手の技術・判断力が上がったということでしょうか。
バットが木製に近いものとなり、バント策に多様性が出てきたとも考えられます。
今大会で愛工大名電が見せてきたバント野球はその多様性を象徴していますね。
また今大会では3塁へのスチールが多かったように感じられます。
盗塁自体はそれほど多いとは感じませんでしたが、いちかばちかの3盗は多かった気がします。
今大会はキャッチャーの3塁悪送球が目立ったこともありますが、
思い切りのいい走塁が徹底されているということでしょう。

前回のセンバツで「戦略面が重要になってきている」と書きましたが、
今大会もそれを踏襲しており、「心理戦」という側面が強くなってきている気がします。
その最たるものが愛工大名電のバント野球でしょう。
初球ワンストライクを捨て、バントの構えで牽制orセーフティーバントでピッチャー・内野を揺さぶり、
ランナーに出ると足を警戒させ、送りバントなどで確実にランナーを進めてプレッシャーをかけていく…
それだけで打てなければ怖くないのですが、
追いこまれると思いきりの良いスイングをしてきて長打を狙ってきて、
終盤に投手の疲れが見えて力が衰えてくると見るや長打攻勢であっという間に点を取られてしまいます。
ピッチャーは常に神経を尖らせていなければならず、休まる暇がありません。
小技と強打が一体化したプレッシャー野球、それを愛工大名電はやってきました。
それは守備にも見られ、極端なバントシフトが印象的でした。
バントの構えを見せればファーストが打者の目の前までダッシュしてプレッシャーをかけていました。
常に相手にプレッシャーをかけることで、心理的に有利に立つ…それが今大会の愛工大名電でした。
逆に優勝した済美の上甲監督はどんな苦しい場面でも笑顔で選手をリラックスさせ、
選手にかかるプレッシャーを吸収していました。
済美は味方のプレッシャーを吸収することで、心理的に有利に立っていた印象です。
他の高校も思いきった作戦が多く、常に相手のミスを誘い出そうとしていました。
上に挙げた3塁へのスチールがその最たるもの。
他にも2アウトランナー3塁でのセーフティーバントがありましたね。
特に八幡商の対常葉菊川戦の9回2アウト1点差ビハインドのセーフティーは見事でした。
守備ではピッチャーの牽制とともにキャッチャーの牽制も目立ちました。
そういう意味で単純な力勝負、送りバント→スクイズという流れから、
多彩な戦術へと高校野球も変化してきているようです。
やっぱりバットの変化が大きいのかもしれません。
数年前までは芯の大きいバットということもあり智弁和歌山や日大三校の強打野球が幅を利かせてましたが、
木製に近いバット(芯は狭いが芯に当たった時の反発力は大きい)を使用することで、戦術面が変わってきたのでしょう。
今大会は全国の高校野球チームがお手本とすべきものを数多く見せてくれたように思います。

なお、地域性では北海道・東北地区の頑張りが目立ちました。
東北・ダルビッシュ・真壁らを中心に、秋田商・佐藤剛士、東海大山形・佐藤淳、一関一・木村、鵡川・宮田と
全国屈指の好投手の存在が大きかったんでしょう。
ベスト8に東北勢3校は史上初。
特に昨夏準優勝の東北は優勝した済美を9回2アウトまでリードするなど、あと一歩の所まで行きました。
優勝旗の白川越えも近い…それを感じさせてくれましたね。
また東海地区の健闘も光りましたね。
準優勝の愛工大名電は攻撃的バント野球で多くの好投手を倒し、決勝まで行く健闘を見せてくれました。
愛工大名電は近年甲子園出場しているものの勝ち星を思うように挙げられず、
それにともなって東海勢も甲子園での早期敗退が続いていました。
それだけに今回の愛工大名電の勝ちあがりは見事だと言えます。
他にも東邦が2回戦で済美に1点差負け、常葉菊川は初戦敗退ながら八幡商に対してドラマチックな戦いをしました。
東海勢の戦いぶりが印象的な大会だったとも言えます。
他には優勝した済美、ベスト4の明徳義塾のいる四国地域の健闘も光りました。
逆に関東・九州地区の早期敗退が目立つ大会となりました。
初戦突破は関東が拓大紅陵(2回戦敗退)、九州が福岡工大城東(ベスト8)と2校のみ。
不運な組み合わせもありましたが、試合内容も悪く、不甲斐ない大会だったと思います。

21世紀枠は八幡浜・一関一と一回戦負け。
鵡川や宜野座のような成功例目指し、頑張って欲しいです。
希望枠の秋田商はベスト8と大健闘。神宮枠の東海勢も健闘と特別枠は一応の成果をあげました。
ですが、一方で東海枠を3から2に、中国四国の3×2から2×2+1と1枠ずつ削減されています。
特に東海地区は愛知の2校選出が多いだけに、岐阜・三重・静岡のチャンスが減りかねません。
今回のような優勝:愛工大名電、準優勝:東邦となった時に地域性の問題で選出に混乱が生じることでしょう。
特別枠も良いのですが、野球以外での既存枠を巡る争いは感心できません。
もう一度各地区の出場枠・特別枠のバランスを考えて欲しいと思います。



今大会の有力選手一覧
独断と偏見なので気にしないでください(^^;

A+ 2年生
右投手 ダルビッシュ(東北)
岩田慎司(東邦)
佐藤剛士(秋田商)
宮田隼人(鵡川)
真壁賢守(東北)
菊川信行(大阪桐蔭)
木村正太(一関一)
佐藤淳(東海山形)
須田幸太(土浦湖北)
高橋利和(常葉菊川)
岩田雄太(大阪桐蔭)
鶴川将吾(明徳)
日下将太(福城東)
中万行博(日南)
伊能英孝(拓大紅陵)
久保田晃史(福井)
高間雄二(斑鳩)
出原雅浩(岡山城東)

成田隼人(鵡川)
渡辺亮真(桐生一)
三森祥平(甲府工)
斎賀洋平(名電)
中田昌(立命館宇治)
上田大貴(八幡商)
福井優也(済美)
松下建太(明徳)
左投手 岩見優輝(熊本工) 丸山孝史(名電) 坪井俊樹(社) 松本基(二松学舎) 須貝大輔(金沢)
大前佑輔(社)
片山博視(報徳)
捕手
中野大地(拓大紅陵)
日高一晃(福城東)
上本博紀(広陵)
田辺真悟(明徳)
島貫充(東海山形)
森本直宏(斑鳩)

一塁手
中村桂司(大阪桐蔭)
久保田健仁(明徳)
定岡卓摩(福城東)
篠崎直樹(桐生一)
吉田良(秋田商)
亀田直紀(鵡川)
石原薫(拓大紅陵)
松井啓(名電)

二塁手

梶田京太(名電)

三塁手
横田崇幸(東北)
梅田大喜(明徳)


中野一樹(福城東)
遊撃手
生島大輔(大阪桐蔭) 松原史典(明徳)
菊池周平(八幡浜)

加藤政義(東北)
外野手 鵜久森淳志(済美) 大沼尚平(東北)
高橋勇丞(済美)
家弓和真(東北)
土谷尚鋭(東海山形)
森岡佑紀(明徳)
石井大祐(東海山形)
種村将郁(八幡商)
佐々木陽祐(秋田商)
佐々木孝徳(名電)
平田良介(大阪桐蔭)
藤川俊介(広陵)
赤瀬浩二(明徳)

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